構造改革の痛み、と言えばまず失業を思い浮かべる。しかしペイオフが解禁された現在、預金が戻らない可能性が現実のものとなったし、年金財政の悪化や健康保険組合の財政悪化の問題も看過できないトピックとなっている。 公的機関による規制の撤廃、が構造改革の課題となっているが、反面、改革による痛みを緩和するためにも何らかの公的関与も必要となる。財政事情の厳しい折、セーフティ・ネットの充実はモラルハザード(制度の悪用)を生むという観点からとかく批判されがちではある。 制度の悪用を改善し、社会的経済的リスクによる「不幸」が特定の社会経済的集団に集中しない・させないような「公平」さと経済活動の活性化、「効率性」をどう調和させればよいのか? 本書は、ドラスティックな制度改革をジャーナリスティックに主張するのではなく、著者の長年にわたる幅広い実証研究の成果に基づいて、きわめて穏当な制度改革案を提示するものである。また、生命保険の株式会社化とコーポレート・ガバナンスの関連など、経済学的にも興味深い論点も採り上げられている。失業保険から預金保険まで、セーフティ・ネットをトータルで考える上で重要な一冊である。