浜松市で毎年5月に行われる凧揚げ祭、「浜松まつり」が主題です。日本史・古代芸能・社会学・欧州史など専門が違う静岡大のスタッフによる共同研究とゼミの成果です。祭りの中心「凧揚げ」の起源は、俗説とは違い18C後半に長男が生まれた家で初節句を祝う際に凧をあげる風習に由来するそうです。その後の凧あげの変遷や屋台の歴史、お囃子の由来、その創始者と思われている森三之助の話などが、丹念に拾った地元新聞記事を挙げながら述べられています。時間的な見方に続いて、空間的に現在のおまつりの状況が、聞き取り調査に基づき、地域の社会的構造を含めて考察されています。まつり本部で行われる大文字のまつりに対し、自治会が中心となる各町の小文字のまつりが活発に動いており、ダイナミックなまつりの大きな要素を占めているようです。他国との比較の視点から、スペインのバルセロナの祭りが、取り上げられています。この祭りは、教会と国家と地域のアイデンテイテイを呼び覚ます民衆の力の相互拮抗作用の結果生まれてきたものとのことです。外国のお祭の歴史の紹介として、日常的な原資料から丁寧に書かれています。浜松は、昨年7月に12市町村を合併し、面積は全国2位、人口も80万人を超えました。市の拡大に伴い町名や区名の変更が必要となり、各自治会で話し合った結果、凧揚げができる、できないで賛否を決めたという話を聞きました。大字や小字の同属意識が未だに生きているようです。この共同体の層の分析に踏み込むには、そこで力のある老人達に、もっと聞き取りをするといいのではないかと思いました。 またマルセー祭りとの比較も面白かったのですが、身近な静岡県民との比較などもあれば、浜松まつりを担う人たちの特色が際だったのではないかと岡目八目的に思いました。
ここでこれを言うのは申し訳ないが、古くから参加している者の視点が欠けすぎ。研究書だという点を差っ引いても面白味に欠ける。エミック・アプローチも充分ではなく、できれば複数の町からのアプローチが欲しかったところ。しかも、史料批判については米田・中村諸氏ほか先行研究のほぼ横流し。現状の問題点についての言及がほとんどない。もうちょっとどうにかならなかったものか?